2022年10月16日~2022年11月15日締切分



特選1
墨継ぎの美しき文一葉忌      古谷多賀子

墨継ぎという言葉を知らなかったが、筆に染み込ませた墨汁が少なくなった時に、 濃く書くために筆に墨汁を含ませて書くことをこう呼ぶのだと知った。墨継ぎをすると 字が急に濃くなるので、隣の行に並ばないようにするとか、和歌の場合は初句、 三句、五句で墨継ぎをするとされているそうだ。樋口一葉が達筆であることは知っていたが、 作者は実際に自分の目で見て感動したのだろう。

特選2
鞴祭つぶし鋼に触れもして     斎藤利明

11月8日に鞴祭という神事が行われる。大阪では生国魂神社で行われることで知られる。 インターネットで見ると神事では古式に則り、刀匠が火で焼いた鋼を槌で打つそうである。 私はまだ実際の神事を見たことはないが、おそらく槌で潰された鋼をつぶし鋼と呼ぶの だろうと想像してこの句を取った。作者は冷めたつぶし鋼に触れたのであろう。 具体的な物を詠んでいるので臨場感のある句となっている。

特選3
榾足して一瞬暗む榾火かな     清水洋子

囲炉裏に焚べる木を榾と呼ぶ。冬の季語である。暖房設備の整った現代の家屋では、 ほとんど見られず、関西では服部緑地の古民家集落など観光用に見ることが出来る だけであろう。この句では、燃え盛る囲炉裏の火に新しい榾を焚べ足すと温度が 下がって一瞬榾火が暗くなることを詠んでいる。細かいところを観察して写生した 佳句であり、特選の三席にいただいた。

入選1
【11】くじ引きのやうに蔓引く烏瓜      田島かよ

烏瓜の蔓を引いてどれが実の付いた蔓か、まるでくじ引きのようだと感じ、それをそのまま句にしたことが良い。

入選2
【24】その事にすぐに答へず落葉踏む     前田野生子

何となく意味深な感じのする句だ。一体作者はどんなことを聞かれたのだろう。落葉踏むがうまく使われている。

入選3
【31】冬野へと時雨降り止むことのなし    森田教子

峠の好んだ談山神社に近い冬野は、その名の通り寒々しい土地だ。時雨に打たれ、より寂しさを感じる。

入選4
【75】世を隔つ思ひ風除めぐらせて      平田冬か

寒風を避けるため風除をして家に籠ると俗世を隔てるように感じるのだろう。作者にとっては冒険句だと思う。

入選5
【106】ロボットの運ぶ(に運ばる)コーヒー文化の日 西岡たか代

コーヒーもリモートで運ばれる時代になったことを文化の日という季語をうまく斡旋して詠んでいる。文法直した。

以下、次点句、添削句もあり

【1】太陽を独り占めして日向ぼこ      小林恕水

【5】かしこにて結ぶ文くる文化の日     清水洋子

【6】鼻唄で窓磨く夫冬ぬくし        西本陽子

【10】杯に月を浮かべて友と酌む      内田あさ子

【13】何話すことなく並び縁小春      清水洋子

【34】拾ふ人無くて鞠坪紅葉散る      森田教子

【35】神鹿の闇にひと鳴き神還る      西岡たか代

【36】高からぬ狭井の瀬音に紅葉散る    黒岩恵津子

【40】冬来る(来たる)生きていませう(しょう)会へるまで 和田公子

【48】保存樹の多き公園小鳥来る      壁谷幸昌

【51】若返る妙薬ほしき神農祭       竹内万希子

【55】仕合(わ)せはこんなものかも日向ぼこ 近藤八重子

【56】虎落笛飛天の吐息かも知れず     小林恕水

【60】星飛ぶやかつて流人の島暗し     高橋宣子

【62】山門に水音近く山紅葉        阿部由希子

【63】朝こそがよき須磨離宮色鳥来     古谷彰宏

【72】これ以上色濃くなれず返り花     迫田斗未子

【77】底冷の回廊長し永平寺        小林恕水

【82】太陽のぬくみともども熟柿吸ふ    黒岩恵津子

【86】抱卵のかまきりやたら斧振るふ    篠原かつら

【95】鞠坪の砂の白々神迎         村手圭子

【96】伊豆七島みなよく見えて秋高し    たなかしらほ

【110】休戦は一日限りクリスマス      野村親信

【118】無言にて会釈の女牡蠣を剥く     小西俊主

【125】薬草園その傍らに冬菜畑       武田順子

【129】縁小春一人将棋の駒の音       小西俊主

【135】札に見る小照凛々し一葉忌      山﨑圭子

【141】臨書してみたき恋文一葉忌      古谷多賀子

【146】浮御堂鴨の羽搏き間近なる      古谷多賀子

【151】文化の日野外ステージ何もなし    広田祝世


純一郎吟

【4】未来めく海上都市に紅葉濃し

【73】翼下なる日本の秋を惜しみけり

【79】パコソンを脇に揮毫す文化の日