2023年4月16日~2023年5月15日締切分



特選1
夢殿とすぐわかる屋根薄暑光     迫田斗未子

法隆寺の夢殿のことであろう。西院の東大門を潜ると、長い土塀と石畳の続く 法隆寺の広い参道の彼方に東院伽藍が見える。その高い基壇の上に八角円堂の 夢殿が立っているが、甍の上に輝く夢殿の宝珠は遠くからでもすぐに分かるのである。 作者の見た初夏の夢殿の屋根は薄暑光を照り返していたのだろう。

特選2
霊水を掬べる手元みどりさす     平田冬か

この句がどこで詠まれたものかは分からないが、霊水を掬ぶ(むすぶ)、 つまり両手のひらを合わせてすくったというのだ。ここはコップなどのない 自然に水の湧いている神聖な場所なのだろう。霊水を掬ぶ手元に、陽光を受けて 初夏の若葉の緑、つまり新緑が映り込んでいたのだろう。

特選3
故郷いま目に見ゆるものみな若葉    吉浦 増

作者の故郷は今、匂い立つような若葉に囲まれているのだろう。 「目に見ゆるものみな」という外連味のないストレートな表現が 作者の喜びをよく伝えている。また「故郷いま」に自分の郷里を 愛する純粋な気持ちが表れている。こういう句に出合うと俳句とは技巧ではなく、 心で詠むものだとつくづく感じる。

入選1
【67】ワッペンの如く花つけ山法師      森田教子

家内の句とは知らずに取ったが、小さい風車のような山法師の花は確かに ワッペンのようにも見える。

入選2
【101】ミサの鐘釣鐘草にひびきけり      田島もり

釣鐘草は蛍袋の傍題季語。ミサの鐘と釣鐘草の鐘が重なって面白い 感じを与える句になっている。

入選3
【122】告げもせでふらりと出づ(ず)る夕薄暑  近藤八重子

やや暑さを覚えるようになった初夏の夕暮れには、誰にも告げずに 一人ふらりと出掛けたくなるものだ。

入選4
【133】母に切る現世最後のメロンかな     野村親信

死期の近づいた母に大好物のメロンを切って口に入れてあげたのだろうか。 少し変わった惜別の句だ。

入選5
【139】家中に風孕ませて五月来る       西本陽子

大胆に詠まれている。家の中全部を風が孕んでいるような五月、 つまり夏がやって来たというのだ。


以下、次点句(添削句もあり)

【1】汀子邸への門は華奢(へは華奢な門)風薫る 森田教子

【3】子等去りて(子はなくも)夫と分け合ふ柏餅  田島かよ

【8】ローマ風噴水を背に君を待つ        木村由希子

【16】魚信よと人に教はる目借時        小林恕水

【18】針の跳ぶドーナツ盤や昭和の日      木村由希子

【33】今一人降りて来たりし登山口       村手圭子

【34】滴りの膨らみきつてまだ落ちず      篠原かつら

【39】あまもよひ鬱々として花樗        平田冬か

【44】薔薇の雨トライアスロン駆け抜くる
    (---駆け抜けてゆくトライアスロン)  若松歌子

【48】桜餅葉も旨さうに子ら食ぶる
           (---食ぶる子ら)    巻木痺麻人

【54】古民家の涼し万葉コンサート       和田容子

【59】蟻の列一途に運ぶ小さき羽根       中尾好子

【69】居ながらに森林浴やハンモック      平田冬か

【70】峡の空一人占めして鯉のぼり       高橋宣子

【81】花散つて熊野の空を明るうす       内田二歩

【86】食卓に五色の野菜今朝の夏        黒岩恵津子

【104】葛切の喉越しのよきおもてなし     阿部由希子

【108】美しく見ゆる女人や春日傘       角山隆英

【112】五月富士立つ百選の渚かな       古谷多賀子

【113】一言の神へ一言ほととぎす       小林恕水

【116】法起寺の塔を遥かに柿若葉       足立 恵

【120】憂き心吹き飛ばしけり春の風
      (春風が憂き我が心吹き飛ばし)  山口雅也

【121】夢殿へ長き舗石や新樹光        斎藤利明

【131】夕焼けに映ゆる夢殿見てみたし     迫田斗未子

【134】御用邸白き衛士小屋緑さす       古谷多賀子

【141】北大の木立深しやリラ冷えす      広田祝世

【142】これは吾に真向きなるかなまむし草   村手圭子


純一郎吟

【42】邸宅の多き斑鳩蛙鳴く

【72】鶴舞の公園広く五月雨るゝ

【125】中宮寺涼し恋物語聞


-互選高得点句を入選に取らなかった理由-

【18】針の跳ぶドーナツ盤や昭和の日
        (ドーナツ盤と昭和の日が少し付き過ぎの感じがしました)


【34】滴りの膨らみきつてまだ落ちず
        (先行句で類想句があると思います)


【98】タンカーの空中を航く蜃気楼
        (この句は分かりませんでした。航くという字はありません)