2024年7月16日~2024年8月15日締切分



特選1
昼顔や眼下に白き未来都市      斎藤利明

 昼顔は、明るい野原などで他の草や木に巻きついて、6、7月頃に朝顔に似た 淡紅色の花を咲かせる。主に日中に開花するので昼顔と呼ばれるが、あまり 目立たずどこか寂しげな花である。「かつらぎ」では比較的例句も少ない季語だ。 同タイトルのカトリーヌ・ドヌーブの映画も脳裏をよぎる。  この句においては、眼下に見る街を「白き未来都市」と詠むことによって、 新しさを感じさせている。写生句だが、取合せ句的な鑑賞も出来得る一句である。

特選2
差す棹の屈折見えて水澄めり     清水洋子

 舟から差す棹は、水の中では水と空気の境目で光の屈折によって折れ曲がって 見える。こうした科学的な事実を屈折という生硬な言葉を使って詠んでいる。 上五中七だけではありのままの事実の報告だが、それを「水澄む」という季語を 下五に置くことによって見事に詩に昇華させている。作者にその意図があったかどうかは 別として新しい写生句の在り方だと感じた。なお「水澄む」は淡水でのみ認められる季語である。

特選3
かなかなや俳句にしかとかなとけり   田島もり

 ベテラン作者による技巧を施した一句である。青畝には「げじげじの命ちりちりばらばらに」 や「福寿草襖いろはにほへとちり」などの所謂言葉遊び的な句もあるが、経験を積まないとうまく リズムに乗せられない。この句においてはカ行音を6つも用いて歯切れの良さを出しつつ、 諧謔の一句に仕立てている。この句の最後の「けり」は体言として使われており、もちろん切字ではない。

秀逸1
【17】点で爆ぜ線でしだるる大花火    山﨑圭子

夜空に揚がる花火の光景を文字によって表すという困難なことにチャレンジした一句だ。 打ち上がった点が爆ぜて、光がつながって垂れてゆく様子を詠み止めている。苦吟の後が感じられる。

秀逸2
【36】広からぬ戦場跡や晩夏光      宮原昭子

晩夏という季語自体の持つ切なさが読者に余意余情を与えている。戦場跡であり、しかも広くないと いうことからどんな場所かを読者に想像させつつ、夏に別れを告げる寂しさを感じさせている。

秀逸3
【39】峰雲の力が欲しく見上げをり     阪野雅晴

峰雲、つまり入道雲は真っ白の威容を青空いっぱいに広げるエネルギーを感じさせる夏を代表 する季語である。作者は自分にもその元気さが欲しいと願うように空を見上げているのだろう。

秀逸4
【43】宍道湖を裏返したき酷暑かな     吉浦 増

 

あり得ないことを詠んでいるのだが、この夏の異常な暑さも過去においてはあり得ないことであり、 現代を生きる我々には共感出来る句だ。宍道湖という山陰を代表する名前を使ったことが良い。

秀逸5
【63】蚕時雨の音のみ響く飼屋かな     朝雄紅青子

蚕時雨とは、養蚕農家で蚕を飼う小屋の中で、5月頃に蚕たちが桑の葉を一斉に食べる時の音が シャワシャワと時雨が降るようだったので付けられた季語である。今ではほとんど見られないだろう。


入 選 句

【8】檜扇や六角堂の池坊         前川 勝

【9】魂迎へたるより稿のはかどりぬ    村手圭子

【15】祝祭日大小遊び船速し        森田教子

【16】三つ杉を猪口に浮かぶる新走     角山隆英

【25】甌穴へ光砕きて滝落つる       斎藤利明

【26】エンディングノート書き足す夜長かな 平田冬か

【32】山動くごとくに動く山の霧      小林恕水

【44】本堂の屋根に水煙夕立来る      鳥居範子

【46】今もある矢切の渡し水の秋      平田冬か

【52】稲刈るや田んぼ一枚剥ぐごとく(--ごとし)清水洋子

【58】しばらくは潮騒を消す蝉時雨     田島竹四

【60】かはたれに早くも鮎の竿ならぶ    たなかしらほ

【65】送火を賑やかに焚き子ら帰る      清水洋子

【67】七十路は村の若手や溝浚へ       吉浦 増

【71】瞥見はふざけ踊りや手練れ衆      小西俊主

【88】国生みの島の空より滝一縷       武田順子

【90】蒜山もはた大山も夕立かな       吉浦 増

【94】句敵に励まされもし登高す       平田冬か

【97】双耳峰険しく迫るお花畑        古谷彰宏

【100】鳩居堂涼し人垣逃れきて       長谷阪節子

【101】避暑客もちらほら混じる野外ミサ   内田あさ子

【103】芋嫌ふ父思ひ出し終戦日       井野裕美

【108】鎮もれる琴坂早も秋の声       田島かよ

【109】早稲の香や湖北に入ればことのほか  たなかしらほ

【118】薄雪草オキの耳への稜線に      古谷彰宏

【126】病窓に空蝉残し退院す
          (空蝉を病窓に置き---)  迫田斗未子

【127】空蝉の縋りつきゐる聖母像       糸賀千代

【131】爽籟にくるりとターン風見鶏      木村由希子

【132】独り身の静かな暮らし蝉時雨
           (---志づかな--)    西本陽子

【134】拡げ読む英字新聞帰省の        高橋宣子

佳 作 句

【12】容赦なく小娘(娘さん次々)すくふ金魚かな  吉川やよい

【26】ビル出でて灼くる巷に呆けけり
          (--を出て—る—身の呆け)   和田公子

【29】原稿を投函涼し赤ポスト
           (赤ポスト涼し原稿投函後)  渕脇逸郎

【38】涼しげにアガパンサスの青揺るる
            (--さよ--ライトブルー)  壁谷幸昌

【42】甲子園勝者敗者の汗に笑む
         (勝者敗者の汗の握手や甲子園)  稲垣美知子

【50】夏霞三輪山遠く神々し
            (神々し遠く三輪山夏霞)  中尾好子

【72】ゴンドラの唄でおひらきビヤホール
                 (---黒ビール)  近藤八重子

【75】武蔵野に来し秋未だ荒々し
              (むさし野の秋来て--)  野村親信

【78】炎ゆる日々命の危機を覚えけり  阿部由希子

【85】火山灰(よな)ぼこり蜘蛛の囲とてもまぬかれず
           (蜘蛛の囲や日常てふ火山灰)  安田純子

【106】触れずとも気配に菜虫落ちにけり
                 (---早も—落つ)  古谷多賀子

【107】まるで平泳ぎのフォーム昼寝の子  黒岩恵津子

【121】夜の秋ひとつふたつと深呼吸
          (深呼吸ひとつふたつと夜の秋)  中内ひろこ

【125】階段の灼くる手摺に縋り得ず(--られず)    前田野生子


純一郎吟

【2】キャンパスの広く緑陰多きかな

【31】炎天を抜け出てスターバックスへ

【115】知らぬ間に確かに秋の来たりけり


新ウエブ句会について

これまで長年にわたり「かつらぎ」誌の印刷をしてもらっていた繁栄舎印刷が 8月末をもって廃業されることとなりました。長らくのご協力に感謝致します。 今後は株式会社アペックスという所(現在も担当者はそこの社員です)に移行しますが、 新ウエブ句会については発行所の方で更新業務を行うようになります。繁栄舎による最後の会なので記念に全員一句ずつ取りました。
森田純一郎