2021年8月16日~2021年9月15日締切分



特選1
闇深く匂へる月下美人かな       古谷彰宏

月下美人は、夏の夜に白い大きな花を咲かせるが短い時間でしぼんでしまいます。 咲くところを見るチャンスは滅多にない花です。昔、峠前主宰が高本時子という かつらぎの古い俳人から贈られた花を真夜中に咲かせたことを思い出します。 真夜中に芳香を放って咲く花は何とも妖艶で、この句の「闇深く匂へる」という 表現がぴったりの魔性の花という印象です。

特選2
一つづつ夜学の窓に灯の入りぬ     小西俊主

最近はコロナの影響もあり、夜間高校や夜間中学も減って来ているのかも知れませんが、 昼間働いて夜間に学校に通う向学心の高い若者にとっては貴重な学習の場です。 仕事を終えて、夜間学校に来た子供たちが入って来る教室には順番に灯が点いて ゆくのでしょう。古き良き時代を思わせる句です。

特選3
この湾や烏賊を干さざる家の無く    村手圭子

どこか小さな漁港の家々で烏賊を天日干ししている光景を思います。 峠は室津漁港などの鄙びた場所を吟行することを好みました。 大きくて立派な港よりもひっそりとした小さな漁村に詩趣を求めたのだと思います。 作者も峠と同じく華美な場所よりも俳人らしくこうした光景を好むのでしょう。

入選1
【12】朝刊のバイク音して明易し      小林久美子

夏の朝は早く午前四時ごろから空が白みかけます。そんな時間から新聞配達の バイクが近所を回る音が聞こえて来ます。省略を効かせた上にバイクという カタカナが句に軽快さを与えています。

入選2
【71】行く秋や人待つごとく列車待つ    迫田斗未子

行く秋を惜しむ気持ちの伝わる句です。人を待つように列車を待つという 一風変わった表現ですが、寒々しい光景と作者の心の中の寂寥感が読者に伝わります。

入選3
【128】丹頂の赤を見よとて近づき来    森田教子

動物園での句でしょう。丹頂鶴は名前の通り、頭部が赤いことが特徴です。 当然、頭の赤を見ろと丹頂が思う訳はなく、作者の主観なのですが実感があります。

入選4
【140】掛け声の少し早過ぎ村芝居     野村親信

村芝居の句は数多く作られており、中々取れないのですが、この句は面白いと思います。 あらかじめ筋書きを知っている村の人が早まって舞台上に声を掛けてしまったのでしょう。

入選5
【147】止むと見え又降り出しぬ時雨かな  前田秀峰

初冬に降る時雨は、降りみ降らずみと言われる通りであり、人の世の無常を感じさせる 季語です。この句は時雨の様子を淡々と写生して虚無感を伝えています。

以下、次点句です

【22】雲海に浮きオキの耳トマの耳      古谷彰宏

【30】トロットの手綱爽やか女性騎手     山崎圭子

【45】混浴の山の露天湯小鳥来る       高橋宣子

【47】恙なく夫と仰げる今日の月       篠原かつら

【55】笙の音は天界の楽月に舞ふ       田島もり

【57】燎原といふ程もなき曼珠沙華      小林恕水

【62】馴染みゆく田舎ぐらしや稲の花     武田順子

【65】大吉と出て占ひの水澄めり       平田冬か

【68】ハゲコウの肩すぼめ佇つ秋黴雨     森田教子

【84】落し文恋に今昔なかりけり       近藤八重子

【92】意志のある如く蛇瓜絡み合ふ      木村由希子

【100】高原に在るかの寝覚め今朝の秋     黒岩恵津子

【107】いつまでも墓標はなれず秋の蝶     迫田斗未子

【110】コフノトリ飛び交ふ在所豊の秋     黒岩恵津子

【116】秋思あり優等生と言はれゐて      木村由希子

【118】下向きて落ちさう落ちず割れ石榴    阿部由希子

【119】指先に心を集め風の盆         小西俊主

【122】小鳥来る隔離病室窓辺にも       黒岩恵津子

【126】神田川源流にして水澄みぬ       和田容子

【127】天高し馬上に風となり駆けん      平田冬か

【133】本好きな我に秋の夜長からず      前田野生子

【136】聞くはずが聞いてもらひし敬老日    吉川やよい

【138】豊年や働き者の嫁が来て        竹内万希子

【153】おにぎりの海苔もたちまち滝じめり   木村由希子

 

純一郎吟

【59】初時雨犀の背いよゝ黒くなる

【76】部活の子弓張月の下帰る

【87】甲山見ゆる高きに登りけり

注意事項
今月は峠前主宰の句の類句が二句ありました。31と115です。 無意識での作句だと思いますが、十分に気を付けてください。