2024年8月16日~2024年9月15日締切分

森田 純一郎選(新ウェブ句会より)

特選 三句

  • 38

    知らぬ間に燕帰つてしまひけり

    井野裕美

  • 67

    秋日傘たたみ句帳を開きけり

    田島かよ

  • 22

    帰るさは影と二人や月の道

    小林恕水

秀逸 五句

  • 58

    振り返る山門小さし萩の風

    大久保佐貴玖

  • 72

    珈琲店窓辺大きく小鳥来る

    長谷阪節子

  • 78

    進水の船初潮に乗らんとす

    武田順子

  • 92

    火の島へつるべ落としを船行きぬ
         (----------の連絡船)

    迫田斗未子

  • 134

    写経の間放たれてあり萩の風 

    平田冬か

特選 三句

  • 特選1

    知らぬ間に燕帰つてしまひけり

    井野裕美

    春に渡ってきた燕が秋に南方のインドネシアに帰ってゆくことを「燕帰る」と言う。仲秋の季語である。参考に、鳥に詳しかった吉田一彦氏に以前伺ったが、「鳥帰る」は北帰行で、樺太・シベリアに帰ることで仲春の季語。「鷹渡る」は、南方のインドネシアに飛去することで三秋の季語だということだ。  身近な場所に営巣する燕は親しみが湧く鳥なので、居なくなると寂しく感じる。この句の「しまひけり」に作者の淋しい気持ちが出ている。悲しさという感動の伝わる句である。

  • 特選2

    秋日傘たたみ句帳を開きけり

    田島かよ

    日焼けを嫌う女性にとって、秋になっても強い日差しの時には日傘を使う。しかし、真夏ほどの直射日光ではないので、俳人は秋に句想が浮かんだ時には、日傘を畳んで句帳を開くのだろう。  秋の景色の中でさす日傘には一抹の寂しさを感じるが、近年の秋の短さから別の意味での寂しさを感じ取ることも出来る。

  • 特選3

    帰るさは影と二人や月の道

    小林恕水

    少し残業をした仕事から家への帰路であろうか、 人気のない夜道に月明かりに照らされて道を歩いていると自分自身の影と二人だけだと感じたのだろう。「帰るさ」は「帰る」に接尾辞「さ」を加えて、「帰る時」という意味になる。少し巧すぎるきらいはあるが、淋しい中にも楽しさを感じさせる一句である。

秀逸 五句

  • 秀逸1
    【58】

    振り返る山門小さし萩の風

    大久保佐貴玖

    萩の寺などでの句だと想像する。見事な萩を見た後に寺を出てしばらく歩き、振り返ると何と山門が小さいのだろうと感じたのだろう。萩という控えめに咲く花と光景がマッチしている。

  • 秀逸2
    【72】

    珈琲店窓辺大きく小鳥来る

    長谷阪節子

    街中ではない少し郊外の緑の多い場所にある喫茶店を思う。大きなガラス窓に小鳥がやってくるような茶房の窓際に腰掛けて小鳥を見ていたのだろうか。峠もこのような場所を好んでいた。

  • 秀逸3
    【78】

    進水の船初潮に乗らんとす

    武田順子

    新しく件建造された船を初めて水上に浮かべた時に、秋の大潮に乗ったのであろう。初潮には、葉月潮や望の潮などの傍題季語もあるが海を詠んだ句は大らかで良い。

  • 秀逸4
    【92】

    火の島へつるべ落としを船行きぬ
         (----------の連絡船)

    迫田斗未子

    原句は、やや分かりにくので終わりの方を直した。火の島とは、桜島のような南方の活火山のある島のことかと想像する。つるべ落としという季語が魅力的な一句だ。

  • 秀逸5
    【134】

    写経の間放たれてあり萩の風 

    平田冬か

    前出句と同じく萩を咲かせている寺での句だと想像する。写経する部屋の扉を開放して萩を見せているのだろう。中七と下五のつながりに気持ち良さを感じさせる句である。

入選

入 選 句

  • 【5】

    千枚田一枚は墓地曼珠沙華 

    近藤八重子

  • 【6】

    緑陰の幹に身重の牛繫ぐ

    古谷多賀子

  • 【18】

    大落暉古戦場跡蝉しぐれ
    (ただ)

    近藤八重子

  • 【21】

    ビル谷間なる子規庵に小鳥来る

    中島 葵

  • 【25】

    斎宮址広しバッタの無尽蔵 

    田島もり

  • 【26】

    裏表見せつつ一葉落ちにけり

    大久保佐貴玖

  • 【35】

    あれペガサスこれカシオペア星月夜

    吉浦 増

  • 【47】

    山寺の鐘の音近く秋澄みぬ 

    安田純子

  • 【61】

    この案山子蛍光色の衣を纏ふ

    たなかしらほ

  • 【66】

    絵手紙の画材にと摘む茄子の花

    壁谷幸昌

  • 【69】

    追憶の小澤征爾や萩の風

    吉浦 増

  • 【75】

    背の稚児祭囃子に眠りけり 

    武田順子

  • 【79】

    赤蜻蛉かつて青畝の通学路

    宮原昭子

  • 【83】

    滝の水徹頭徹尾真白なる 

    木村由希子

  • 【88】

    夜流しに湿る袂や風の盆

    平田冬か

  • 【96】

    つややかにはらりと解けし芒の穂

    田島竹四

  • 【100】

    寺内町路地に始まる虫の秋

    田島かよ

  • 【105】

    相生となる友好樹小鳥来る

    黒岩恵津子

  • 【108】

    誘ふがごとく並ぶる案山子かな

    小西俊主

  • 【115】

    忘れたきこと忘れんと茗荷汁

    田島竹四

  • 【116】

    去なんとす燕群れゐる伊賀盆地

    長谷阪節子

  • 【120】

    風のなくつまらなさうな猫じゃらし

    糸賀千代

  • 【123】

    良き土と水の秋篠陶の秋 

    阿部由希子

  • 【133】

    この辺も高野街道葛の花

    宮原昭子

入選

佳 作 句

  • 【9】

    特攻の遺言書読む終戦忌 

    壁谷幸昌

  • 【40】

    口紅を上手にひけぬ秋思かな
      (------ひけずふと秋思)

    田島かよ

  • 【45】

    山の道空蝉風に転がりぬ
    (空蝉が風で転がる山の道)

    山口雅也

  • 【53】

    明日香路の古刹を挟む稲の波
    (古刹訪ふ明日香路-----) 

    高橋宣子

  • 【60】

    爽やかに表情豊か手話ニュース
    (手話ニュース----爽やかに)

    壁谷幸昌

  • 【119】

    故郷へ近づく翼下夕刈田

     迫田斗未子

  • 【125】

    単線の車窓懐かし豊の秋 

    角山隆英


純一郎吟

  • 【36】

    帰路急ぐ我に虫の音滋きかな

  • 【87】

    木洩れ日をさへも避け行く残暑かな

  • 【109】

    新涼や水音高くなり来たる