2022年12月16日~2023年1月15日締切分



特選1
注連飾る羽田空港格納庫       吉浦 増

羽田空港という都心の大空港の機体を格納する大倉庫にも正月を迎える ために注連飾りをしているというのだ。近代的で大きな物質の象徴のようなものに対して、 小さく日本古来の精神性を表すものを対比させたことが面白い。また、安全な飛行を祈念 するためだということも分かる。峠に「空港の大格納庫大西日」という句もあるが、 掲句は違った面からの写生句であり、共に良さがあると思う。

特選2
雲の湧くほどに大湯気楮蒸す     古谷多賀子

楮の樹皮の繊維は和紙の原料となる。冬の初め頃、楮を刈り取り、枝を払い、 長さを揃えて束にし、庭に据えた大釜に入れて蓋をし、蒸してゆく。 紙漉自体が山間部の寒さの厳しい地域で行われるのだが、楮を蒸す煙は、 冷たい空気に触れて、まさに雲が湧くかと思えるほどの湯気を大空に向かって 噴き上げるのだろう。空気の冷たさ、釜の熱さ、湯気の白さが目に浮かぶようだ。

特選3
わが胸のロザリオにいま初日かな  前田野生子

ロザリオとは、カトリック教会で用いられる数珠状の道具で、大珠6、 小珠53を鎖でつないで輪にし、端に十字架をつないだものである。 正式な祈りでは、ロザリオの大珠を指でつまみ、主の祈りを唱え、 小珠10個を繰りながら天使祝詞を10回唱え、栄誦を1回唱える。 作者の胸に掛けられたロザリオに初日が射したのだろう。神聖な気持ち になると共に世界平和を祈る気持ちが伝わる。

入選1
【42】伏水の今喉通る寒九かな       角山隆英

伏水とは固有名詞であり、伏見の日本酒の仕込み水に使う口当たりの 柔らかい良質の地下水のことだと思う。一年で最も寒い寒九に飲む伏水はさぞや甘露であろう。

入選2
【67】初湯して太平洋へ足伸ばす      小林恕水

こうした発想の句は見たことがあるが、太平洋へ足伸ばすと言い切った大胆さが斬新である。

入選3
【90】出初式百の放水揃ひけり
    (放水の弧の百揃ふ出初かな)   木村由希子

豪快な出初式の様子が分かる句だ。弧の百揃ふ、というと少し説明的なので、 あっさりと百の放水揃ひけり、とした。百は厳密な数ではなく、多いという解釈で良い。

入選4
【126】膝毛布二枚借りもす空の旅      和田容子

長時間のフライトとなる国際線の夜間飛行では、膝毛布が一枚では足りないほど 機内が冷えることがある。峠句を思わせる省略が効いている。

入選5
【129】寒禽の群れて神木揺らしけり     田島かよ

餌の少ない冬場には、鳥たちが群れを作って木の実を食べに来る。 神木の実でさえ恐れずに啄む鳥たちに大樹の枝も揺れていたのだろう。


以下、次点句(添削句もあり)

【5】もしかして雪女かも雨戸鳴る    長谷阪節子

【7】寒念仏四条大橋すたすたと     たなかしらほ

【9】公園にボール蹴る音日脚伸ぶ    糸賀千代

【19】箱根路に沸く駅伝や初テレビ(---初放送)吉浦 増

【24】参道に小さき出店蓬餅       篠原かつら

【29】見渡せば年立ち返る摂河泉     角山隆英

【34】校章を透かし証書の紙を漉く    古谷多賀子

【35】紙漉きや波遊ばせて水を編む    近藤八重子

【37】初糶の鮪弾けんかに(ばかり)並ぶ 山崎圭子

【43】畦焼の煙纏ひて夫戻る       西本陽子

【44】初のつく季語の並ぶる初句会    清水洋子

【46】国生みの島より拝す初日の出    武田順子

【49】久米仙人見守る吉書揚げにけり   宮原昭子

【56】凍て空に月残りたる夜明かな    和田公子

【57】角巻の会釈瓠犀を見せにけり    古谷彰宏

【58】寒の水掛けられどほし苔不動    阿部由希子

【61】我勝ちに病を語り日向ぼこ     黒岩恵津子

【64】弓始退く所作も気品あり      宮原昭子

【71】ひたすらに励む句の道恵方とす   吉浦 増

【76】若菜摘む七草全て揃ふまで     角山隆英

【77】大都会寒九の雨に道迷ふ      足立 恵

【84】音読もして独り居の冬籠      広田祝世

【85】鎮座せる七つの小祠落葉舞ふ    鳥居範子

【92】作句力未だ健在ちやんちやんこ   武田順子

【94】笑顔良き巫女より破魔矢授かれり  たなかしらほ

【103】元朝の殊の外美し杜の松      迫田斗未子

【104】真青なる空へ向く機首旅始     黒岩恵津子

【105】初景色詠む句碑に差す初日の出   阪野雅晴

【106】父すぐに母に替はれる初電話    木村由希子

【107】ちはやふる楠の神木淑気満つ    壁谷幸昌

【113】又しても恋の歌留多をお手付きす  小林恕水

【116】春を待つ卓に吟行用語集      糸賀千代


純一郎吟

【2】巻き舌の放つ白息濃かりけり

【45】芯棒の倒れとんどの果てにけり

【99】パソコンの起動ゆつくり老の春