2019年11月11日~2019年12月10日締切分

特選1
「稲むらの火」を語り継ぐ震災忌  平松文子

「稲むらの火」とは、1854年の安政南海地震の際に、紀伊国広村の庄屋の五兵衛が地震の揺れを感じた後、海水が沖合に退いてゆくのを見て津波の到来に気付き、祭準備に追われる村人たちを高台に避難させるために、自分の田の刈り取ったばかりの稲の束(稲むら)に火をつけて村人たちを救った逸話です。地震後の津波への警戒、早期避難の重要性、人命救助のための犠牲的精神を説いています。淡路島に住む作者にとって、この句の震災忌は、阪神大震災だと思います。

特選2
ジーパンで過ごす日曜レノンの忌  近藤八重子

今や伝説のミュージシャンとなった元ビートルズのジョン・レノンは1980年12月8日にニューヨーク・アッパーウエストにある自宅の高級コンドミアニム「ダコタハウス」前で狂信的なファンに射殺されました。今年の 12月8日は、たまたま日曜日でしたが、作者はジーパンを履いてくつろいでいて思わずその日がレノンの忌日だということに気付いたのでしょうか。ビートルズが現役で活躍していた頃に学生時代を過ごした世代として私も共感出来る一句です。

特選3
どう運び来し大釜か楮蒸す   古谷彰宏

和紙の原料となる楮は、その樹皮を水に浸けて、煮熟してさらに精製し、黄蜀葵の根から採った液を加えて一枚一枚漉いてゆきます。最後に板の上に広げて天日乾燥を行うまで、和紙作りは非常に手の掛かる複雑な作業です。楮を煮る大きな窯には楮の束を立てて、その上に木桶を被せて皮を剥きやすくするために蒸してゆくそうです。山間に楮を蒸す煙や湯気が上がると冬めいた感じがします。一体どうやってこんな山の中にこの大釜を運んだのだろうと作者は思ったのでしょう。

入選1
【5】一農家囲むは泥田蓮根掘る     長谷阪節子

入選2
【46】綱五本百人引きに注連を張る    斎藤利明

入選3
【54】小さき福欲しくて小さき熊手買ふ  木村由希子

入選4
【82】長身は重宝がられて煤払ふ     竹内万希子

入選5
【129】またもとの一人となりて落葉踏む  小林久美子

以下、次点句です。添削したものもあります。

【6】体中火照りきたるや薬喰      鳥居範子

【13】吉原の家並の模型一葉忌      篠原かつら

【15】何やかや干せる筵や庭小春    西岡たか代

【16】池底の赤土顕は冬ざるる     小西俊主

【19】熊手よりこぼれんばかり福づくし 中島 葵

【33】天空に最も近く朴枯るる     村手圭子

【38】孫悟空顔出しさうな秋の雲    阿部由希子

【39】啄木の眠る岬へ星飛べり(の飛ぶ) 糸賀千代

【44】生きている限り句を詠む去年今年  田島もり

【51】雪女うしろ姿を見たるのみ     平田冬か

【60】冬ぬくし自転車で来る往診医    大久保佐貴玖

【62】春夫の詩口ずさみつつ秋刀魚焼く  朝雄紅青子

【65】 故郷のこの味が好き味噌おでん  足立 恵

【72】このショール掛けたや室の遊女塚  田島もり

【76】深吉野の酒はぴりりと薬喰     西岡たか代

【80】天仰ぎ何か言ひたげ鵙の贄     糸賀千代

【86】澪標打ちゐる波に鴨浮寝(澪標波乗り浮寝鴨気まま)山崎圭子

【92】ひたすらに塵を取るのみ紙漉女   古谷彰宏

【93】工房は如何にも質素紙を漉く    古谷多賀子

【99】句碑に会ひ万両に会ふ生家かな   足立 恵

【103】亡き人の座布団置ける縁小春   広田祝世

【105】室の津を普く包む冬銀河     角山隆英

【106】棕櫚を背に少年右近像凍つる   阪野雅晴

【110】大岩に噛みつくごとし冬の波   大久保佐貴玖

【119】乗り換えの駅に啜るや走り蕎麦  内田あさ子

【120】筋塀に見え隠れもし雪蛍     山崎圭子

【124】足跡を辿り津和野へ青畝の忌   斎藤利明

【126】神農の虎紅灯を覗きもす     竹内万希子

【130】一筋の煙立つ山眠りけり     西岡たか代

    次回も誌友の皆さんからの投句をお待ちしています。