2024年1月16日~2024年2月15日締切分



特選1
ストリートピアノ弾かんとコート脱ぐ   阪野雅晴

ストリートピアノとは、街中・街角などの公共の場所に設置された誰でもが自由に 弾ける状態のピアノのことだ。最近テレビで「駅ピアノ」や「空港ピアノ」 などが紹介されているが、広辞苑にはまだない言葉である。この句では、 おそらく歩いていた人が急にコートを脱いでピアノを弾き出したのだろう。 「コート脱ぐ」は春の季語で峠前主宰が好んで詠んだが、今は角川の新版大歳時記にも 「外套脱ぐ」として仲春の季語に分類されている。11字がカタカナだが、現代の街の 光景を詠む場合には効果的であり、私は俳句にカタカナを用いることには全く抵抗がない。

特選2
風荒ぶ湖心に掻きぬ寒蜆          吉浦 増

松江に住む作者の句なので、この湖心は宍道湖のことだと思う。日本海からの 風の吹き荒ぶ広い宍道湖の真ん中で蜆取りをしている光景であろう。 湖などの深い所での蜆取りは、舟に乗った漁師が竿の先につけた箕をしゃくるように して取る。この句では「掻きぬ」という表現により、その様子が読者によく伝わって来る。

特選3
まだぬくき野焼の跡を踏み帰る       清水洋子

他にも野焼の句がいくつかあったが、この句がもっとも良いと思った。 野焼自体を詠むのではなく、野焼の終わった後の野を詠むという目の付け所の良さに感心した。 特に上五の「まだぬくき」というひらがなでの表現に非常に実感が籠っている。また、 下五の「踏み帰る」という素っ気ない表現に野焼に対する未練も感じることが出来る。

入選1
【74】もう一度あの梅見たく引き返す    迫田斗未子

梅林での句であろうか。よほど作者の気に入った梅の花があったのだろう。 もう一度見たいので引き返すという無邪気な子供のような気持ちが伝わって来る。

入選2
【92】ふらここや互ひ違ひに風に乗る    吉川やよい

一見よく分からない句だと思ったが、もう一度読むと2台のブランコがバラバラ に漕がれていて、それぞれが風に乗ったように見えたということが分かる。写生句の良さを感じる。

入選3
【119】火山灰降るを常とすテラス避寒宿   高橋宣子

読み方は「よなふるをつねとすテラスひかんやど」となり、定型のリズムが守られている。 火山灰は桜島のものだろうか。固有名詞を使わずに光景が想像出来る句である。

入選4
【122】蜆舟茜さす富士そびらにす      古谷多賀子

 

2月初めに行った千葉の稲毛海岸での吟行句だろう。朝日を浴びた茜色の富士山を後ろにして 蜆舟が一艘出ていた。この句を見るとその時の様子がまざまざと脳裏に蘇る。

入選5
【128】春光を弾きて回る風車かな      鳥居範子

海外の句のようにも思える。大きな風車が春の光を弾き飛ばすように回っている光景を 詠んだ句である。春の到来を風車と共に喜んでいる気持ちも伝わって来る。


佳作(次点句の中で優れたものです。添削したものもあります)

【9】闇汁会一升瓶を下戸(げこ)抱き来(だきく)  
       (―下戸の抱き来る一升瓶) 内田あさ子

【15】薄氷の下ゆく鯉の緋色かな      清水洋子

【30】被災地に鰤豊漁の知らせかな
        (―嬉しき知らせ鰤豊漁) たなかしらほ

【35】春節や人の坩堝の中華街        斎藤利明

【43】潮の香を広げ網干す春隣
        (塩の香をー網干しやー)  山﨑圭子

【56】カラフルな絵の具を溶かす春の水
           (―溶けるー)    大久保佐貴玖

【64】探梅や道問はんにも人気なく      古谷彰宏

【68】からうじて聖母とわかる踏絵かな    平田冬か

【90】風紋の一所を崩し防風掘る       清水洋子

【109】噴煙の向き見定めて布団干す      高橋宣子

次点句(添削句あります)

【18】国生みの島の七福詣で得し      広田祝世

【24】早春や目白押しなる厨事       近藤八重子

【45】苗木植ゑ学徒ら無名古墳守る     黒岩恵津子

【46】高揚がる焚火の炎運気めく      渕脇逸郎

【57】大三輪の春泥を来て三師句碑     阿部由希子

【70】冬ざれの回転木馬人もなく      内田あさ子

【78】春耕や丘の上には父母の墓      大久保佐貴玖

【84】キリシタン処刑地跡に襟立つる    木村由希子

【86】見えさうで見えざる笹子鳴きにけり  宮原昭子

【103】断崖に出でて野焼の果てにけり   大久保佐貴玖

【104】菩提樹の下にて涅槃し給へり     足立 恵

【114】釣り針も紀淡海峡針納        角山隆英

【115】春光に水占の吉浮かびけり      武田順子

【123】煽る役叩く役ある野焼かな      平田冬か

【126】遠望の君津木更津薄霞        古谷彰宏

【135】青空透きなんぢやもんぢやの芽吹き急 山﨑圭子


純一郎吟

【36】新しき町いにしへの梅咲かす

【58】ご生家に続く街道雛飾る

【91】蜆舟なほ富士の前動かざる


選後に一言
この新ウエブ句会を楽しみにしている人が多いということは、総評の阪野雅晴氏の コメントから分かりましたが、月末の一番忙しい時期で、翌々月の「かつらぎ」の 選句や原稿執筆、月初のズーム句会、他にもいくつかの月末に来る選句と重なって しまっています。何とか続けたいとは思いますが、選句選評が遅れることもあることはご了承ください。  純一郎