2020年10月16日~2020年11月15日締切分

特選1
急に冬喪中はがきの二通来て  阪野雅晴

表現がいわゆる俳句的でないところが魅力です。しかし、「急に冬」と句頭に強い印象を与えておいて、 次に「喪中はがき」という陰影のある言葉で驚かせ、最後に「二通来て」という非常に具体的な表現で まとめたところは老練な作り手と言えます。冬の寒さだけでない心の中の寂しさも伝わり共感出来る一句です。

特選2
唐突に唐突に枝に榠櫨の実  中島 葵

これも意表をつく表現が用いられた句です。「唐突に」というあまり俳句に馴染まない、 やや生硬な言葉を句頭に持って来て、さらにそれを重ねて用い、その後に種明しのように 「枝に榠櫨の実」としたことが句に新鮮なリズム感を与えました。この句の通り、大きな榠櫨の実は本当に唐突に頭上に現れます。

特選3
箒目はいつも通りの留守の宮  小西俊主

上二句と異なり、表現自体はオーソドックスな句です。詠まれた内容は、神の留守の間も神社 の広前の箒目はいつもと変わらない几帳面な模様を残しているということです。俳人でなければ見過ごしてしまうような 地味な光景をしっかりと捉え、しかも留守の宮ということを読者に伝えるという高度な写生句です。

入選1
【10】木偶小屋の楽屋小暗し隙間風  平田冬か

木偶人形を保管する小屋の隙間風を詠んでいます。真っ暗でなく、小暗いという表現が肝です。

入選2
【65】電卓のCの動かぬ文化の日   内田二歩

文明の利器である電卓のクリアボタンのCが文化の日に動かなくなったというアイロニカルな一句です。

入選3
【103】能舞台いま雪蛍舞ふばかり  木村由希子

野外能の舞台でしょう。冬になって能の舞われることのなくなった舞台に雪蛍が舞うという切ない句です。

入選4
【133】炉話は古の恋物語      田島かよ

囲炉裡端で聞く土地の古老の話は普通怪談などでしょうが、それが恋物語だったという素敵な句です。

入選5
【136】ミサ寒し疫病禍とて歌もなし 古谷多賀子

新型コロナウイルス感染のために教会での御ミサの時も聖歌の合唱は控えているのでしょう。収束を祈ります。

以下、次点句です

【1】恰幅の良過ぎて案山子とは見えず  村手圭子

【12】稲妻に田の面の匂ふばかりかな  角山隆英

【16】雪ばんばふはと現れてふと消えて 山崎圭子

【22】カタルシス効果も少し落葉踏む  木村由希子

【30】日々猫にちよつかいを出し冬籠  糸賀千代

【31】地図上の世界一周秋灯下     田島かよ

【34】この色の口紅欲しき紅葉かな   森田教子

【37】寒見舞せねばと思ひ日々を病む  前田秀峰

【40】絵の売れずモンマルトルに日向ぼこ 広田祝世

【41】独り居にポインセチアの対を買ふ 清水洋子

【43】見ず知らず会話始まる炉に寄れば 阿部由希子

【47】老骨になほ矜持あり枯芙蓉    吉浦 増

【55】登山道目指すは天下布武の城   木村由希子

【57】地酒酌む実しやかな狩談義    竹内万希子

【62】延縄に貝殻結はふ飯蛸漁     前川 勝

【64】ホスピスの日当たる窓辺小鳥来る 鳥居範子

【70】坂がかる馬籠街道しぐれけり   篠原かつら

【77】小高みの霊畤拝所やあけび熟る  宮原昭子

【81】北岳に今沈みゆく秋入日     敷島鐵嶺

【84】櫛笄それも質草一葉忌      篠原かつら

【92】間遠なるバス待ちをれば紅葉冷え 長谷阪節子

【93】まだ生きてゐたのか蟷螂鎌をあぐ 長谷阪節子

【102】鼻歌はカーペンターズ小春風   西岡たか代

【109】観潮や思つたほどに船揺れず   平田冬か

【113】木犀を撮る香りまで入りさう   平松文子

【119】名札なぞどうでもよしと秋の薔薇 小林久美子

【129】西行庵濡れてゐるかや片時雨   足立 恵

【130】駅見えて迂回するバス日短か   阪野雅晴

【131】来る鳥に少し残して柿を?ぐ   高橋宣子

【139】空ら巣箱ある木は残し枝打ちす  古谷彰宏

【145】たわい鳴き話の弾む囲炉裏端   阿部由希子

【146】潔く裂けし通草の腹真白     中島 葵

【148】吊るされし老鮟鱇の面魂     近藤八重子

【150】道あるがごとく真つ直ぐ白鳥来  迫田斗未子

【158】アクロバット宛ら濠の松手入   西岡たか代

【159】日向ぼこ自然に和睦老二人    井野裕美