2019年9月11日~2019年10月10日締切分

特選1
鑑真の眦拭かむ菊の綿   斎藤利明

唐招提寺を建立した鑑真和上は、8世紀半ばに中国から何度も日本へ海を越えて渡ろうとして、南方の気候や激しい疲れのために両目を失明してしまいます。菊の綿とは、重陽の行事の一つで陰暦の9月8日に菊花の上に綿を置いて、翌9日に露がおりて香の染みた綿で体を撫でると老いをぬぐい去ることが出来たと考えられたことに由来する秋の季語です。作者は失明した鑑真像の眦を菊の綿で優しく拭いてその視力を取り戻せないかと思ったのでしょう。

特選2
川燈台よき目印よ小鳥来る 木村由希子

鉄道や自動車が登場するまでは、川を利用しての水運が我が国における重要な運送手段でした。船の安全を守るために川岸に燈台が設置されており、日が暮れると燈台に灯りが点いたのでしょう。水都である大垣には今も川燈台が残されています。掲句は、その川燈台が小鳥たちにもよく分かる目印として立っているのだということを詠んでいます。「目印よ」という軽快な表現が季語に良く合っていると思いました。

特選3
石垣の曲がりに合はせ稲架を組む 小西俊主

刈り取った稲の束を天然乾燥させるための木組みのことを稲架(はざ)と呼びます。秋の季語です。稲架には、田んぼの中や畦に置かれた簡単なものから青竹を結わえて十数段に及ぶ大仕掛けのものまでありますが、この句では石垣に沿って稲架を組んでいたのでしょう。非常に素直に光景を描写した句ですが、稲架の曲がり具合まで目に浮かんでくるようです。写生句の魅力を感じさせてくれる一句です。

入選1
【3】又もとの独りとなりぬ秋の暮    阪野雅晴

入選2
【14】病室の窓開けちちろ聞かせけり  広田祝世

入選3
【30】山容をくづさず山の眠りけり   平田冬か

入選4
【52】碧血碑ありと聞くのみ鳥兜    糸賀千代

入選5
【117】月仰ぐいつか一人になる二人   近藤八重子

以下、次点句です。添削したものもあります。

【7】飛ぶといふより吹かれゐ(い)る秋の蝶 前田野生子

【10】結びの地句碑を写して水澄める   古谷多賀子

【11】植物園かつて里山穴惑ひ(い)   玉田ユリ子

【21】地下足袋の足早に来て菊に水    小西俊主

【22】函館の夜景に勝る烏賊火かな    古谷彰宏

【28】即位祝ぐ神宮の杜小鳥来る     稲垣美知子

【42】マニキュアの指に水蜜桃剥かれ(剥かれる水蜜桃)小林久美子

【44】聖鐘や釣瓶落しに鳴りはじむ    長谷阪節子

【63】だんだんに声の遠のく芒原     竹内万希子

【69】千枚の代田に月のひとつづつ    近藤八重子

【72】道しるべ多き大垣暮れ早し     古谷多賀子

【80】高床の宝蔵の下ちちろ鳴く     角山隆英

【89】手捻りのぐい呑み馴染む夜長かな  斎藤利明

【93】湖上カフェ今日はお休み小鳥来る  木村由希子

【105】本堂へ真直ぐに伸ぶる萩の道    小西俊主

【108】数多なる柚子片寄する湯舟かな(片寄せて柚子湯かな)小林久美子

【109】屋敷なく屋敷神あり木の実降る   古谷彰宏

【113】山高くなるや蜻蛉の空も又     村手圭子

【115】ポケットにポケット図鑑秋野ゆく  阿部由希子

【118】異界へと分け入る心地芒原     竹内万希子

    次回も誌友の皆さんからの投句をお待ちしています。