2022年8月16日~2022年9月15日締切分



特選1
装蹄日記す暦や馬肥ゆる      武田順子

装蹄とは、馬の蹄に蹄鉄を打つことであり、装蹄師という資格のある技術者が行う 作業ということを知った。700キロにもなる全体重を支えながら時速約60キロで走る 競走馬の四肢のバランスを整え、蹄の磨耗を抑えながら、最大限の競争能力を発揮させる 重要な仕事だ。装蹄日を記録し、神経を使いながら世話をされる競走馬は、さぞや毛並みも 艶やかによく肥えるのであろう。

特選2
どこまでも秋澄む阿蘇の草千里    迫田斗未子

熊本県阿蘇の噴煙を上げる中岳を望み、絶好のロケーションを誇る草千里。古くから 多くの歌人俳人によって詠まれている場所である。烏帽子岳の北麓に広がる浅い四角形の 大草原や中央の大きな池などが、牧歌的な風景を形成している。「どこまでも」という 一語が雄大な光景を伝え、作者の感動が読者の心に響く一句となった。

特選3
秋めくや家の中より暮れてきし    清水洋子

淡々と客観的に詠まれていながら、作者の心の中にある陰影が感じられる佳句である。 秋の夕暮を「家の中より」と捉えた繊細な感覚がこの句に文学性を与えている。 5月の俳人協会春期俳句講座で話した久保田万太郎の「あきかぜのふきぬけゆくや人の中」 に通じる寂寥感、抒情を感じさせる句である。

入選1
【27】神鼓いまひときは強く月を待つ    村手圭子

大神神社での観月祭の神事を思う。祈祷殿での雅楽演奏における神鼓は月を呼ぶかのように力強かった。

入選2
【48】桐一葉たしかな音を生みにけり    大久保佐貴玖

大きな桐の葉がゆっくりと落ちる時の音を捉えて「たしかな音」と詠んでいる。 はっきりとした音だったのだろう。

入選3
【100】ゴンドラの山上駅の蔦紅葉      高橋宣子

神戸の布引ハーブ園での光景と思われる。ゴンドラ、山上駅、蔦紅葉の三つの言葉による印象明瞭な句だ。

入選4
【120】とつときの美酒を封切る月の宴    竹内万希子

中秋の名月を見ながらの宴において、月の客のために大切にしまっておいた極上の酒を振る舞ったのだろう。

入選5
【145】すぐ終はる観光用の牛角力      阪野雅晴

隠岐や宇和島などでの観光用の牛角力は勝負をつけず、すぐに終わるらしい。物足りない気持ちが伝わる。

以下、次点句、添削句もあり

【10】散るたびにふと匂ひ立つ葛の花        阿部由希子

【13】去ぬ(る)燕右近の像をかすめ飛ぶ      前田秀峰

【14】草陰に明滅かすか秋蛍            角山隆英

【17】馬場のバーなべて倒しぬ初嵐         武田順子

【33】昼昏き尼寺に萩咲きこぼる          西本陽子

【34】彫り深き主宰の句碑に白雨跡         角山隆英

【39】志賀旧居庭の要の柿たわわ          森田教子

【40】赤門は出入り自由や天高し          たなかしらほ

【42】湿原の衣通る風に穂絮飛ぶ          糸賀千代

【45】露の玉草を撓ませ鞠躬如           平田冬か

【47】まあまあの人生よしと(よかり)熟柿食ぶ  清水洋子

【50】烏帽子つけ月の伶人とはなりぬ        村手圭子

【56】月今宵光の中を寝まりけり          和田容子

【57】秋草の細ければ風やはらかき         木村由希子

【61】天空をはみ出すごとし大花火         大久保佐貴玖

【63】干されたる漁網の裾に虫すだく        糸賀千代

【64】青畝の句長い芒を活けながら         田島竹四

【65】容赦なき車窓の西日スマホ見る        井野裕美

【66】獺祭忌記念切手の子規を見る         前田野生子

【70】手をつなぐやうな三山野路の秋        長谷阪節子

【76】河童橋狭むる登山リュックかな
       (登山者のリュックに狭き河童橋)  高橋宣子

【77】みんみんの坩堝となりぬ伊賦夜坂       吉浦 増

【85】一人づつ渡る吊橋秋高し           竹内万希子

【97】結局は日本酒で〆月の宴           田島もり

【106】秋立つや(たつや)絵を描く紙に礬水布く   前川 勝

※礬水(どうさ=膠液に明礬を少量加え紙に引いて絵の具のにじみを防ぐ)

【107】子規忌来る吾にも病の潜むやも        西岡たか代

【110】寅さんの江戸川堤草は実に          古谷多賀子

【112】渡し舟着く(き)下総の天高し        古谷多賀子

【123】三輪の月原始の心取り戻す          田島もり

【127】秋高し朴のすがしくくすり道         阿部由希子

【129】名月に真向き背きの観覧車          たなかしらほ

【134】キッチンカーどれもカラフル小鳥来る     西岡たか代

【136】口づけをするかに(ほど)秋の薔薇をかぐ   広田祝世

【141】槽涼し諸子追河鮒持子            壁谷幸昌

(もろこ・おいかわ・ふな・もつご=全て淡水魚)


純一郎吟

【1】紅灯の巷に迷ふ小夜時雨

【35】倒伏の黒松に新松子生る

【103】昨夜の酒残る吾を刺す秋蚊かな