2019年7月11日~2019年8月10日締切分

特選1
消えさうで消えぬ蝋燭滝不動  古谷彰宏

私は奈良・生駒の岩谷の滝を思います。細い滝道をずっと奥に入って行くと行場があり、山深い所の高きより年中勢いよく行滝が落ちています。この句の通り、滝水によって起こる風に吹かれる蝋燭の火は消えそうで消えません。細かな所に目を付けて写生された句です。滝の涼しさが伝わって来ます。

特選2
菩提樹に爽籟聴くや伎芸天  齋藤利明

奈良市西部の秋篠寺の伎芸天は、堀辰雄が「東洋のミュウズ」と讃えた恋仏です。頭をやや左に傾け、笑みを讃える表情が印象的な仏様です。その境内にある菩提樹もまたよく知られています。爽籟とは、秋風の傍題季語ですが、菩提樹に吹く風音を聴いて伎芸天様も秋の訪れを感じたのでしょう。

特選3
望郷の窓辺の我に蚯蚓鳴く  角山隆英

静まり返った秋の夜に土の中からジーと聞こえて来る何かの声を蚯蚓鳴くと俳句では言います。実際は、発音機能のない蚯蚓ではなく、螻蛄が鳴いているそうですが、秋らしいしみじみとした趣のある季題です。本当のことは知りませんが、私には異国の孤独な夜を詠んだ句だと思えました。

入選1
【43】はまなすの花のどこまで破れ番屋 内田あさ子

入選2
【67】芋水車水を押すかに回り初む 朝雄紅青子

入選3
【98】待ち合はす茶房にぬつとサングラス 西本陽子

入選4
【106】庭先に沢蟹の来るそんな町 木村由希子

入選5
【118】遠雷となりて再び針仕事 大久保佐貴玖

以下、次点句です。添削したものもあります。

【6】糸ほどの斧持ち上ぐる子蟷螂 近藤八重子

【10】反論を飲み込みし夜や髪洗ふ 木村由希子

【12】はまなすに柵なき砂丘ひろがりぬ 迫田斗未子

【13】南仏の田舎広々ラベンダー 阪野雅晴

【20】雲ひとつなき蒼空や秋立つ日 若松歌子

【24】円に見え球には見えず大花火 山崎圭子

【25】結びの地風鈴なべて翁の句 篠原かつら

【32】滝行衣雫する辺は露涼し 村手圭子

【37】なかなかに前に進まぬ盆踊り 足立 恵

【45】帰省子の好物あれもこれもとて 和田容子

【46】合唱の如く向日葵立ち並ぶ 平松文子

【47】身を細め立つ五位鷺に驟雨かな 近藤八重子

【59】移民史を曝す神戸の文学館 広田祝世

【64】清流の鱒シューベルトふと思ふ(--を泳ぐ-に--)壁谷幸昌

【70】蛇口より温き水出づ原爆忌 玉田ユリ子

【71】神宮へ献納誇り鮑海女 田島もり

【73】山国は山より暮れて蕎麦の花 小林恕水

【81】修験者の通る頃とて水を打つ 西岡たか代

【90】かざり羽広げて涼し白孔雀 武田順子

【91】暑に負けし猿か膝抱き腑抜けめく 糸賀千代

【95】狭井川へ浦島草は糸を垂る(--糸を垂れたる--)角山隆英

【103】丁髷のままの裏方村芝居 黒岩恵津子

【104】ハンモックアルプスの風ほしいまま 竹内万希子

【110】朽ちつつも梔子の花よく匂ふ 稲垣美知子

【113】吾が書架にボーボワールの黴ぶるまゝ 中島 葵

【120】人影を見かけぬ札所梅を干す 古谷多賀子

【125】鷺草の一茎一花舞ひ澄めり 平田冬か

    次回も誌友の皆さんからの投句をお待ちしています。