2021年10月16日~2021年11月15日締切分



最初に、今月の選句結果について少しだけ説明をさせていただきます。夏雲の互選で高得点であったけれど、私が特選や入選に取っていない句については、 何らかの類想句、類似句があったのだと思います。また、昭和29年11月に高浜虚子が 文化勲章を受賞した時の東京での祝賀句会で青畝が「紅葉の賀わたしら火鉢あつてもなくても」 という句を出した時に互選には全く入らず、虚子一人が取りました。 今回のウエブ句会の選でもそうした句があるかもしれません。 「選は創作なり」ということを説いた虚子の言葉をよく考えて、 新しい選句をするようにしています。皆さんも俳句は作るだけでなく、選句力も伸ばして下さい。

特選1
寒紅をひくや女将の顔となる       竹内万希子

私の知る京都の高級料亭である一力や竹茂楼の女将さん達も普段は中の仕事で忙しくしており、 化粧っ気のない顔で走り回っているものと思います。日が落ちて、 芸舞妓達が店に来て客たちも来る頃には、着物を来て見違えるような姿になります。 寒紅という季語はまさにこのような女性達のためにあるのではないかと思います。 掲句では、「ひくや」「となる」というきっぱりとした表現が女将のきっぷの良さまで表現しているようです。。

特選2
一筋の光の如き糸を引く         木村由希子

インターネットで製糸の工程を少し調べましたが、繰り糸に使う繭を水・湯・蒸気などで接着を緩め、 表面からもつれた糸を引き出して、一本の糸にしてゆくという根気の必要な作業が求められることを 知りました。シルクになる糸は一筋の光のように見えるのでしょう。 単なる写生にとどまらない作者の気持ちの籠った句だと思いました。

特選3
冬の夜や家のどこかが軋む音       清水洋子

冬になると家の壁や天井を構成する木材が乾燥、吸湿することによって、木材同士がこすれ合い、 軋むような音を立てます。ただそれだけのことを詠んでいますが、「冬の夜や」で一旦切り、 「どこかが軋む」というやや抽象的な表現をすることにより、何かしら不気味な印象を与える句になっています。

入選1
【29】御師の宿裏手に冬菇育ちをり       古谷彰宏

冬菇(ドンコ)とは、冬に取れる椎茸のことだそうです。笠の開きの小さい肉厚の椎茸で非常に 高級なものだということです。御師の宿とは、特定の社寺に属して檀家に対して祈祷する御師が 地方からの信者を泊める宿のことです。

入選2
【42】逝きそびれ長生きをして菊の酒      田島竹四

災厄を避け、長寿をもたらす菊を旧暦九月九日の重陽の節句の際に、盃に浮かべて飲むお酒を菊の 酒と言います。今年96歳になった作者は自分を卑下して詠んでいますが、どうかもっと長生きをして 欲しいものです。

入選3
【54】陳列の如荊棘線に鵙の贄         中島 葵

荊棘線とは、有刺鉄線のことです。都会では最近は余り見かけませんが、元々はアメリカ西部の 牧場で柵に多用されていました。鵙の贄がこれに刺されて陳列されているように見えたのでしょう。

入選4
【73】まづ低き木より雪吊仕上げけり      鳥居範子

金沢の兼六園で有名な雪吊は、雪の重みを防ぐため、庭木の天辺や支柱から樹形に合わせて縄を 円錐形に張って松を吊り上げるものです。低い木から作業を行うことを詠んでその様子を忠実に伝えています。

入選5
【158】細長き神戸眼下に鳥渡る         長谷阪節子

海と山に挟まれて東西に長く広がる神戸の街を細長いと端的に表現しています。その神戸を眼下に渡る 鳥を詠んだ句です。俳句では、「鳥渡る」は秋に日本にやって来る冬鳥のことを言います。

以下、次点句です

【15】選挙カー今朝は聞こえず蒲団干す      森田教子

【16】その瞳枯れてはをらず枯蟷螂        足立 恵

【33】いつ見ても放つたらかしや鵙の贄      中島 葵

【34】捨てきれぬものに囲まれ冬ごもり      篠原かつら

【37】炬燵出し吾が定位置の決まりけり      阪野雅晴

【48】紅葉をめざす避難路地震の浜        武田順子

【52】鴨群るる日向組また日陰組         平田冬か

【68】街道の標石古り花八手           高橋宣子

【74】孤高なる高さに朴の枯れゆけり       村手圭子

【84】山荘のテラスは銀河濃かりけり       和田容子

【95】急に絵馬奏でて止まず神渡し        糸賀千代

【104】爽やかに巫女の舞ひたる句碑開き     宮原昭子

【107】水湧くや忍野八海冬日燦         和田公子

【108】院展の膠匂へる岩絵の具         野村親信

【112】山茶花の散るに任せて長屋門       篠原かつら

【114】僅かなるなぞへが御師の冬菜畑      古谷彰宏

【117】朝鵙の精一杯の高音かな         古谷彰宏

【129】障子張り退院の母待ちにけり       内田あさ子

【132】枯芒淋しき音を立てにけり        阪野雅晴

【137】二百個を二本の竿に柿吊す        小西俊主

【138】みちのくの北上川の霧深し        敷島鐵嶺

【142】聞き耳を立てて動かぬ炬燵猫       西岡たか代

【144】何となく質屋の名残り一葉忌       長谷阪節子

【149】掘りし穴ほどは自然薯太からず      野村親信

【156】一団の去り遥拝所紅葉冷         古谷多賀子

【162】古歌にあるごと洛北の紅葉かな      高橋宣子

【164】枯葉踏み五輪真弓の歌真似る       長谷阪節子


純一郎吟

【51】朝時雨ウメ地下深く迷ひけり

【102】冬うらら紀州訛りの寺案内

【127】再読す俳諧大要秋灯下