
2023年10月16日~2023年11月15日締切分

特選1
樏を提げて湯宿の迎へ来る 野村親信
一読して特選にしようと思った句です。先師、峠の有名な句「かんじきを最も 戸口近く吊る」があり、かつらぎの誌友は樏に対して特別な思いがあることも事実ですが、 この句は単独の句として十分に特選に値するものだと思います。雪深い温泉地の 旅館に行った時に宿の主人が駅まで樏を提げて迎えに来てくれたという句です。 季語と句の詠まれた光景が見事にマッチしていながら付き過ぎになっていないのは 主情を入れず客観的に詠まれているからだと思います。新ウエブ句会の今年 一番の句だと言えるでしょう。
特選2
一歳の大きな一歩秋高し 渕脇逸郎
前句とは対照的な句ですが、非常に明るく詠まれていて感じ入りました。 一歳になった赤ちゃんがようやく歩き始めたその一歩が大きいということだけを 言っていて他に何も言っていないことが素晴らしいです。秋高しという天文の 季語を用いて、身の回りにあることを詠んでいます。取合せ句として非常に 完成度の高い句です。一という数字のリフレインも巧みです。 人類の未来に対する希望を持たせる一句だと思いました。
特選3
幸ひをいただく心地種を採る 壁谷幸昌
種採という晩秋の季語を用いた句ですが、この句は上五中七において 「幸ひをいただく心地」と表現したことによって種採という作業を高邁なものに 昇華させたと言えます。自然の恵みへの感謝を表した句ではありますが、 今の地球上において起こっている人間の愚かさばかり目立つ愚行に関係なく、 黙々と日々の暮らしに励みながら、生きる喜びを感じるという句に出合うと 何かホッと救われたような気持ちになります。
入選1
【7】パリコレのショー終へモデル着ぶくるゝ(着ぶくれて)野村親信
特選句の作者であり、また添削句ですが、この句は絶対に取ろうと決めていました。 人事季語であり、かつあまりオシャレでない季語とパリコレのモデルとの組合せが絶妙な諧謔です。
入選2
【56】萩括る句碑にほどよく触るるほど 村手圭子
この句のポイントは「ほどよく」です。また、萩だからこそ、句の味わいが出るのです。 峠句「萩刈つておくれやすかと尼のいふ」のはんなり加減に共通するよろしさのある句です。
入選3
【105】曲り江に沿ひて寒釣ならびをり 前田野生子
湾曲した入江に沿って寒釣りの背中が並んでいる光景を詠んだ句で寒々しい感じが伝わります。今回この句を誰も取っていない事に驚きました。今月は佳句が多くありますが、皆さんの選句は良くないです。
入選4
【117】大宇陀の水の尊し薬掘る 阿部由希子
宇陀は森野薬草園がある土地であり、きれいな水が流れる場所でもあります。 宇陀という地名とその水を尊いと詠むことによって神聖な感じさえ与える句です。 これも私だけしか取っていないことが残念です。
入選5
【124】入選句がくと減りたる年暮るる 田島竹四
白寿の竹四さんは何の衒いもなく、ご自分の気持ちを素直に詠んでいることが 素晴らしいです。本人が狙っていないと思いますが、年暮るという季語にピタッと 合っています。ご健吟を祈ります。