2023年7月16日~2023年8月15日締切分



特選1
びしよびしよの永代通り渡御続く    古谷彰宏

東京都江東区の富岡八幡宮で8月に行われる例祭は「深川祭」として知られる。 この祭は神輿に水を豪快に掛けることで有名だということだ。 永大通りという東京のど真ん中の大通りを車通行止めにして、 白地に赤や青地に白の印半纏の祭衆が、どしゃ降りの雨の中、 祭り太鼓を打つという勇壮な祭である。掲句は、びしょびしょという 上五のオノマトペがその光景を的確に伝えている。

特選2
初秋の夜風を入れて日記書く      糸賀千代

今年の夏は異常な暑さが続くが、やっと少し涼しくなって来たので クーラーを消して窓を開けたのだろう。夜風を受けながら秋の訪れを感じつつ、 今日一日のことを思って日記を書くという静かな句である。こういう句は、 初心の人や高齢で遠くへ吟行や吟旅に行けない人にも良い句が詠めるという 励ましになると思う。

特選3
ぬるま湯は牧水好み避暑の宿      阪野雅晴

歌人若山牧水は旅と酒と温泉をこよなく愛した。殊にぬるい湯にゆったりと 長時間浸かる伊豆の湯治場を好んだようだ。「人生は旅である、我等は忽然 として無窮より生まれ、忽然として無窮のおくに往ってしまふ」 という牧水の人生観は俳人にも通じるものがあるだろう。こういう温泉で 避暑をしたいものだ。

入選1
【18】回し飲む馬乳酒に酔ふ星月夜       高橋宣子

中央アジアに旅をされたのだろうか。遊牧民の作る馬乳酒に酔いながら 満天の星を仰いだのだろう。

入選2
【46】墓洗ふ墓誌に一名彫り足して       たなかしらほ

親族を亡くされたのだろうか。墓誌に名前を彫り加えた墓石を丁寧に洗ったのであろう。

入選3
【63】宵山に檜扇生ける格子窓         前川 勝

祇園祭では祭花として檜扇を床の間や窓などに生ける習慣がある。季語は檜扇である。

入選4
【81】燧灘伊予灘いかに今朝の秋        吉浦 増

観音寺沖の燧灘、松山沖の伊予灘、共に俳句に縁の深い瀬戸内の地に秋が訪れたのだ。

入選5
【83】真似のできさうな花押もお風入      木村由希子

花押という古くからあり、厳しさもあるものを「真似出来そう」という 現代感覚で詠んだことが面白い。


【1】短夜のさそり座に燃えアンタレス      長谷阪節子

【14】刈り上げし麦わら帽の乙女かな      巻木痺麻人

【15】露天市巡り疲れてかき氷         糸賀千代

【24】エゾの名を冠すが多しお花畑       古谷彰宏

【37】手の甲を反らすを覚え踊りたる      吉川やよい

【44】蛍見て帰らんとせば遠水鶏        田島竹四

【54】神輿へと水煙上げ水掛けす        古谷多賀子

【61】後悔の更に深まりたる端居        前田野生子

【73】威勢よきどんどこ舟の小若衆       阿部由希子

【76】打水の仕舞ひの水を足に打つ       清水洋子

【84】包洩るる馬頭琴の音星涼し        高橋宣子

【94】夏炉あり火棚も自在鉤も無く       広田祝世

【117】ワイン館涼しよき曲流れゐて      西岡たか代

【124】夜の秋吾が思惟貧しからざるや     吉浦 増

【127】芋水車見せて廻して売つてをり     阪野雅晴

最後に次点句です

【3】神の島ながめのベンチ風涼し       鳥居範子

【17】印象派絵画の筆致雲の峰        森田教子

【36】廃鉱にトロッコ一つ夕焼くる      田島もり

【49】天気図は台風二つ稲の花        近藤八重子

【50】遭難碑ここ天空のお花畑        平田冬か

【57】東西の塔にわかるゝ稲雀        前田野生子

【68】忌日来る(来て)妥協一切なき残暑   野村親信

【85】口紅を拭ひたくなる酷暑かな      木村由希子

【90】細き葉に止まりて細き糸蜻蛉      小林恕水

【98】盆供物でんと据ゑたり水垢離場     阿部由希子

【107】三方に礼して稚児の鉾降りる      前川 勝

【113】露地裏に祭用意の盥かな        和田公子

【120】唐崎の松風ぬくき残暑かな       迫田斗未子

【134】筋金の入りたる様や破芭蕉       黒岩恵津子

【135】淡路島鱧三昧の旅日記         中尾好子


純一郎吟

【110】生駒ケーブル沿ひ竹は皮を脱ぐ

【122】水撒くや力点付加を思ひつつ

【128】独り居の窓を台風叩きけり