2024年9月16日~2024年10月15日締切分

森田 純一郎選(新ウェブ句会より)

特選 三句

  • ふところに不滅の火抱き山粧ふ 

    田島竹四

  • 51

    展開図示すが如く桔梗咲く 

    森田教子

  • 42

    生涯を裏方に生き単足袋

    吉浦 増

秀逸 五句

  • 28

    風除を出づる一舟また一舟

    村手圭子

  • 83

    アッシジのフランシスコや冬の墓地
    (冬ざるゝ墓地にアシジノフランシスコ)

    前田野生子

  • 94

    淙々と一水通し大花野

    山崎圭子

  • 102

    高原の風は明るし秋桜 

    平田冬か

  • 106

    テレビより溢れ出さうや秋出水

    黒岩恵津子

特選 三句

  • 特選1

    ふところに不滅の火抱き山粧ふ 

    田島竹四

    不滅の火とは、比叡山延暦寺の根本中堂内陣にある不滅の法灯のことであろう。延暦寺開創以来1200年以上灯し続けられているそうだが、実は織田信長による焼き討ちで一時途絶えている。しかし、先に山形県立石寺に分灯されていたものを移すことで、消失を免れて現在まで続いているそうだ。菜種油を燃料にして灯心が浸り、火が灯るという構造で灯籠内で燃え続けている。   作者の田島竹四さんは、来年4月に何と満100歳になられる。いつまでも若々しい句を作っておられることに 心より敬意を払いたい

  • 特選2

    展開図示すが如く桔梗咲く 

    森田教子

    桔梗の花は肉厚のある独特の美しい形をしており、星や色紙など様々な形容をされて詠まれている。しかし、展開図、つまり展開によって切り広げられた図面のようだという形容には初めて出合った。   編集長であり、自分の妻なので身内贔屓になるようで、少し選評も書きづらいが、他の人の言っていない句を作ろうとしている姿勢は認めたいと思う。「巧い句」を作ろうとするのではなく、「新しい句」を作っていこうという姿勢が感じられることが良い

  • 特選3

    生涯を裏方に生き単足袋

    吉浦 増

     夏の間、和装の時には単の足袋を履くそうだが、単足袋という言葉をネットで検索してもなかなか見つからなかった。しかし、どうも下足番のような役目をする人が簡単に履いたり脱いだり出来るような簡易な足袋のことだろうということが分かった。芸事の世界のことには詳しくないので間違った解釈をしているかも知れないが、単足袋と人の生涯とを結びつけて詠むという困難なことに挑戦したことを評価したい句だ

秀逸 五句

  • 秀逸1
    【28】

    風除を出づる一舟また一舟

    村手圭子

    峠句などで詠まれる風除は陸の上のものを詠んでいることが多いが、これは小舟が出て行くと言っているので水上のものなのだろうか。新ウエブ句会では、巧い句よりもこうした変わった句に挑戦してもらいたい

  • 秀逸2
    【83】

    アッシジのフランシスコや冬の墓地
    (冬ざるゝ墓地にアシジノフランシスコ)

    前田野生子

    満池谷の青畝師の十字墓であろう。アッシジが正式な発音なので上下を入れ替え、下五を冬の墓地とした。完璧な直し方ではない。とい子奥様はモニカが霊名であり、12月22日の命日には教子と毎年参っている

  • 秀逸3
    【94】

    淙々と一水通し大花野

    山崎圭子

    「淙々と」は、パソコンで探すのに苦労した珍しい表現だが、広辞苑ではさらさらと水の流れ注ぐ音とある。大花野が季語だが、広い野原を一水が流れていることを「通し」と詠んだことが新鮮だと思った

  • 秀逸4
    【102】

    高原の風は明るし秋桜 

    平田冬か

    平明に詠んでいて、秋の高原に吹く風の気持ちよさが伝わる句だ。「風は明るし」に注目した。コスモスが明るいのは当たり前だが、コスモスに吹く風が明るいという詩人としての発見がある

  • 秀逸5
    【106】

    テレビより溢れ出さうや秋出水

    黒岩恵津子

    9月21〜23日の能登半島豪雨のような大雨による被害が多発している。あまりにもひどい状況に作者は、テレビからも溢れそうだと感じたのだ。季節感の感じられる句であればテレビ俳句でも問題はない

入選

入 選 句

  • 【5】

    時計塔学府の秋を見守れり 

    大久保佐貴玖

  • 【8】

    賽箱に木の葉の混じる正一位

    近藤八重子

  • 【18】

    丹波路や苅田にぽつん一軒家

    吉川やよい

  • 【36】

    ヘルン故居炭火恋しき頃となる

    木村由希子

  • 【38】

    風あらば鳴り出しさうよ金鈴子

    中島 葵

  • 【48】

    神木の粒揃ひなる銀杏の実

    田島かよ

  • 【56】

    秋天を映す隠沼万華鏡

    西本陽子

  • 【69】

    ポケットの奥深くまで草虱

    古谷多賀子

  • 【73】

    この花野いつきの宮の跡とかや

    平田冬か

  • 【76】

    爽やかに登檣礼の帽を振る

    たなかしらほ

  • 【99】

    黄の色を違へ棚田の稲穂波

    糸賀千代

  • 【108】

    みかん捥ぐ真鶴岬指呼にして

    古谷多賀子

  • 【114】

    子の窓の明かりの消えぬ夜長かな

    角山隆英

  • 【117】

    旅鞄持つ芙美子像秋の雨

    田島竹四

  • 【123】

    きらめける海へと続く花野道

    渕脇逸郎

  • 【125】

    漂へるほどに位置変へ蜆舟

    木村由希子

  • 【127】

    句座の窓広きに小鳥来たりけり 

    宮原昭子

入選

佳 作 句

  • 【74】

    千枚田田毎に稲架の架けらるる
    (一田毎稲架の架けある千枚田)

    壁谷幸昌

  • 【115】

    鵙日和日のある限り野良仕事

    吉浦 増

  • 【119】

    みかん狩伊豆七島のよく見えて
    (伊豆七島よく見ゆる日やみかん狩)

    古谷多賀子


純一郎吟

  • 【37】

    秋深し禿鸛哲学者めける

  • 【49】

    踏む砂利に秋冷至る神の杜

  • 【57】

    秋の池どんどん歩く圭子さん