2024年2月16日~2024年3月15日締切分



特選1
なむかんのリズムとはなり青き踏む      村手圭子

上五の「なむかん」を見たら、「かつらぎ」俳人ならば誰しも、先師 阿波野青畝の名句「南都いまなむかんなむかん余寒なり」を思うだろう。 修二会の修行僧の唱える経を言葉の魔術師である青畝が見事に一句に 詠み込んだものである。その名句の本句取りとも言える句ではあるが、 大きな違いは「青き踏む」という季語である。余寒を詠んだ青畝に対して、 現代に生きる作者は春の訪れの喜びを伝える「青き踏む」を季語に選んだ。 俳句の無限の可能性を感じさせる一句となった。

特選2
背伸びして身の丈越ゆる若布干す      中野勝彦

一読して潮の匂いがして来るような句である。採ったばかりの和布を 高い竿に干しているのだろうか。「背伸び」と「身の丈越ゆる」の二つの 表現から若布干しの作業の様子がまざまざと眼裏に浮かんで来そうである。 写生句の迫力を感じさせる句である。

特選3
山上ににはか作りの梅見茶屋       迫田斗未子

綾部山梅林のような場所を想像する。梅の木をたくさん植えているような山は、 地元の人たちが自分達で育てていることが多い。整備された都会の公園などと は異なり、茶屋も手作りでこしらえた素朴なものが多いと思う。 「にはか作り」という中七の写生によって生き生きとした一句になった。

入選1
【1】言はでものこと言ひもして炉辺を去る  内田あさ子

人間関係は複雑なものである。つい一言余分なことを言ったことによって 信頼関係が崩れ去ることがある。炉端を囲んでいて帰る間際に無神経な 一言を発したのだろう。炉辺なので情感のある句になった。

入選2
【49】正倉院門閉ざされて春寒し       阿部由希子

東大寺の寺宝を納める正倉院は宮内庁の管轄ということもあり、 固く戸を閉ざしている。正倉院の長い塀に沿って歩いて行くと一層 春寒の感を覚えるのである。

入選3
【75】花種や壁一面の棚を埋め        小西俊主

どこかの種物屋であろうか。壁一面に小さい花種を入れた引き出 しのある棚があったのだろう。壁一面の棚を埋めという表現から春 の訪れの喜びを感じることが出来る。

入選4
【93】我が突きし杖につまづく四月馬鹿     広田祝世

 

転けないように自分で注意して突いている杖に自らがつまづいて しまったと詠んでいる。四月馬鹿の句は、なかなか難しいが、 掲句は自虐によるユーモアのセンスを感じる。

入選5
【128】賽銭箱のみ見えゐたり雪囲        古谷彰宏

雪囲いをされた神社なのだろうか。雪深い地にある神社は、 雪囲いをされていることと思うが、その隙間から賽銭箱だけが 見えているというのだ。写生による発見のある句である。


佳作(次点句の中で優れたものです)

【10】大男小さくなりて針供養        中野勝彦

【20】遊歩道火山灰まみれなる地虫出づ    高橋宣子

【27】巻き癖の少し残れる涅槃絵図      大久保佐貴玖

【46】若布干す浜に余白のなかりけり     武田順子

【82】蕨採るかつて銀銅採れし山       糸賀千代

【83】賓頭盧の口の中にも春の塵       西本陽子

【90】はや羊もこもこなるや毛刈り待つ    山﨑圭子

【99】啓蟄のぽこぽこ続く土竜塚       清水洋子

【107】海を守る森になれかし苗木植う    黒岩恵津子

【124】何ひとつ予定なき日の朝寝かな    武田順子

次点句(添削句あります)

【13】たんぽぽの絮千塚にさ迷へり      田島もり

【22】青空に近き枝より芽吹きけり      大久保佐貴玖

【30】長谷寺の順路はあらず牡丹の芽     渕脇逸郎

【38】一山の処々焔たつ牡丹の芽       長谷阪節子

【63】摘みたての葉を店頭に草餅屋      中島 葵

【67】ひらひらと水鏡して初蝶来       黒岩恵津子

【81】辛夷咲く長子故郷出でしまま      小西俊主

【97】踏み外しさうな崖道国栖の奏      小林恕水

【100】この先に荒瀬も淵も椿落つ      平田冬か

【120】春惜しむ円空仏と笑み交はし     黒岩恵津子

【122】踏青や流謫の島の見ゆるまで     吉浦 増

【131】掻き分けて子等の宝石竜の玉     西岡たか代

【132】一斉に島の段畑茎立ちぬ       高橋宣子


純一郎吟

【54】コンビニの二階が句座よ奈良うらら

【72】煤汚れしたる紙衣の僧忙し

【85】転害門聳ゆる奈良の余寒かな