特選 三句

  • 117

    国境を跨ぐ大滝涸れ知らず

    高橋宣子

  • 90

    大垣に句座を囲める翁の忌

    木村由希子

  • 60

    鳥渡る分水嶺にしばし沿ひ 

    古谷多賀子

秀逸 五句

  • しばらくは玄関に置く榠樝の実

    近藤八重子

  • 小春日のキリン小首を傾ぎけり 

    野村親信

  • 69

    物忘れ互ひに責めず菊膾

    糸賀千代

  • 119

    磯釣へ下る崖径石蕗黄なり

    田島竹四

  • 129

    淀川の鉄橋長く暮早し

    迫田斗未子

特選 三句

  • 特選1

    国境を跨ぐ大滝涸れ知らず

    高橋宣子

     国境を跨ぐ滝は、ナイアガラの滝、ビクトリアの滝、また最近注目されている中国とベトナムの国境に位置する徳天大瀑布などがある。この句の滝がどれかということは分からないが、国境を跨ぐというダイナミックな光景の中の涸れることを知らない大滝を詠んだ、最近の句には珍しい大らかな自然詠の良さを感じる作品である。

  • 特選2

    大垣に句座を囲める翁の忌

    木村由希子

     陰暦10月12日の芭蕉忌は、大阪本町の南御堂で毎年、大阪の芭蕉忌の法要と俳句会が催される。しかし、掲句では芭蕉が5ヶ月かけて「奥の細道」の旅をした最後の訪問地である大垣で句会をしたことを詠んでいる。俳人ならば誰しも分かる「大垣」という固有名詞を有効に活かした句だ。

  • 特選3

    鳥渡る分水嶺にしばし沿ひ 

    古谷多賀子

     分水嶺とは、地上の水が二つ以上の水系に分かれるところの山脈のことであり、鳥渡るは秋に日本に来て春に帰る鴨、雁、白鳥などの冬鳥のことである。この句のよろしさは、それを「しばし」という副詞によって表現したことである。やがて分水嶺からも去ってゆく渡り鳥への惜別の情も感じられる一句だ。

秀逸 五句

  • 秀逸1
    【3】

    しばらくは玄関に置く榠樝の実

    近藤八重子

     家族の誰かが拾って来たのだろうか。珍しいものだが、いつまでも飾っておくには大き過ぎる榠樝の実を「しばらくは置く」と表現したことが面白さを出している。

  • 秀逸2
    【6】

    小春日のキリン小首を傾ぎけり 

    野村親信

     かつらぎ人にとってキリンの句と言えば、峠句「冬空やキリンは青き草くはへ」をすぐ思うが、掲句の小春日和に小首を傾げるキリンもまた印象的である。長い首を曲げたところを瞬間的に捉えた句だが、季語がよく効いている。

  • 秀逸3
    【69】

    物忘れ互ひに責めず菊膾

    糸賀千代

     年を重ねると誰しも健忘症になる。お互いにそのことには触れずに過ごしているのだろう。取合せ句だが、菊膾が絶妙である。茗荷汁などとすると付き過ぎになってしまう。

  • 秀逸4
    【119】

    磯釣へ下る崖径石蕗黄なり

    田島竹四

     良い漁場に行く崖径は、たいがい険しいところが多い。そうした足場の悪い急坂を下っている時に、ふと黄色い石蕗の花が目に入ったのだろう。俳人の目で見た句である。

  • 秀逸5
    【129】

    淀川の鉄橋長く暮早し

    迫田斗未子

     毛馬の辺りから見る淀川にかかる鉄橋は長い。そこを貨物列車が通ったのだろうか。長い鉄橋を渡る列車をたちまちに釣瓶落しの日が包んだのであろう。

入選

入 選 句

  • 【7】

    ふところに舟屋抱きて山眠る

    稲垣美知子

  • 【17】

    緋蕪干す逆白波の寄する浜 

    たなかしらほ

  • 【20】

    八ヶ岳全容見ゆる霜の朝

    古谷彰宏

  • 【33】

    冬ぬくし寺に句友の一句かな

    田島かよ

  • 【35】

    開墾の一畝だけの冬菜畑 

    稲垣美知子

  • 【48】

    狐狸潜むかに渺渺の薄原

    植松順子

  • 【55】

    暖房に飼はれてコアラ寝てばかり 

    広田祝世

  • 【61】

    天寿待つかに蟷螂の枯れにけり
    (・・・・・動かざる枯蟷螂)

    平田冬か

  • 【64】

    筋塀の外より仰ぐ返り花 

    迫田斗未子

  • 【72】

    三門に水かげろふや冬日和

    斎藤利明

  • 【79】

    この大蛇継ぎ接ぎだらけ里神楽

    小林恕水

  • 【81】

    神山の裾にひっそり冬桜

    角山隆英

  • 【84】

    人生は百才からと菊の酒

    田島竹四

  • 【89】

    赤い羽根胸にミサイルニュース告ぐ

    糸賀千代

  • 【98】

    木洩れ日の中の参道神の留守

    井野裕美

  • 【99】

    枝打ちの音こだまして山眠る 

    近藤八重子

  • 【108】

    環濠に水の輪しぐれゐるらしく 

    村手圭子

  • 【110】

    千畳敷カールを埋む千草かな

    古谷彰宏

  • 【127】

    田の神の去りて出雲路冬に入る 

    吉浦 増

入選

佳 作 句

  • 【16】

    黄葉の色交り過ぐ車窓かな 

    古谷多賀子

  • 【40】

    小津映画ふつと脳裡に秋刀魚焼く

    木村由希子

  • 【100】

    為すべきを成し遂げたりと案山子寝る

    角山隆英

  • 【111】

    神山の薄日にぽつり返り花

    阿部由希子

  • 【121】

    飼葉桶すぐに空つぽ馬肥ゆる

    阿部由希子

  • 【125】

    安田闘争もはや歴史ぞ落葉踏む

    村手圭子


純一郎吟

  • 【50】

    着ぶくれて坂口安吾気取りけり

  • 【52】

    着ぶくれて選者の誇り失はず

  • 【65】

    蘇武井を二羽の小啄木鳥のつつきけり